このページでは各地で働くピアスタッフ・ピアサポーターの方々にインタビューをさせて頂き、聞き手&語り手とのやり取りの中から日本の精神保健領域におけるピアスタッフ雇用の希望や意義、また現状や今後の課題を伝えていきます。 ※尚、当面はピアサポートワークに携わる人たちの声を広く届けたいという思いと、現状を明らかにしたいという思いから多様な立場の(有給・無給や雇用契約の有無に関わらず)人の声を取り上げたいと考えています。

※現状、精神的困難の経験を有する当事者で精神領域で対人支援(特にピアサポートワーク)をする人の事を呼ぶ際、事業所単位で様々な呼称がありますが当サイトではひとまず「ピアスタッフまたはピアサポーター」と呼ぶことにします。

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【今回、お話を聞かせてくだった下平さんのご紹介】


<掲載日:2026.02.02>

インタビュー内容として主に次の7点についてお聞かせくださいました。みなさん、是非お読みください!

①今の仕事をするようになったきっかけ   ②お仕事の内容  ③ピアサポートスタッフとはじめて出会った時のことや、印象深いエピソードなど  ④経験専門家養成講座を開くことになった想い  ⑤経験専門家養成講座を開催するうえでのやりがい  ⑥経験専門家養成講座等の活動のなかで変化してきたこと  ⑦好きな言葉やモットー

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下平さん、本日はインタビューにお答えくださりありがとうございます。まずは、今の仕事をするようになったきっかけを教えてください。

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きっかけは、2014年にフィンランドに研修に行ったときに見て・聞いたオープンダイアローグの取り組みです。それまでは地域精神保健の援助技術や制度を研究する職場で働いていましたが、2015年春から地域精神保健福祉の実践の現場に身を置くようになりました。

最初はACT(包括型地域生活支援プログラム)チームに、次に所沢市アウトリーチ支援チームに。昨年の春からは社会福祉法人所沢しいのき会地域生活支援センター所沢どんぐりで相談員(相談支援専門員)として働い ています。いずれの職場でも、基本的にはケースマネージメントを行っています。

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オープンダイアローグの取り組みに触れて、地域支援の現場に身を置かれるようになったのですね。いまのお仕事の内容について、もう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

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私の今の職場は、所沢市の委託相談支援事業を受託しています。精神疾患により何かしら生きづらさを抱えていらっしゃる方、もしくはご家族から相談を受け、一緒に動きながら生活がより楽に、希望に沿ったものになるようにお手伝いしています。 この委託事業のなかには、ピアサポートを支援に活かすことや地域貢献、例えば、研修企画や地域の他の専門職者へのコンサルテーション自立支援協議会の精神部会(所沢では「こころ部会」が正式名称)を運営することなども含まれています。

加えて、埼玉県の地域移行・地域定着ピアサポート活動促進事業も受託しており、ピアサポートスタッフと共に、定期的に市内の精神科病院を訪問し、入院患者さんやデイケアの患者さんとグループミーティングを行ったり、ときに、個別に患者さんのお話を聴く機会を持っています。実は、こうした仕事の他に自分のライフワークと考えている活動を2017年から、職場や働く地域が変わっても継続して行っています。

それは経験専門家養成講座の運営です。これは、千葉県市川市のACTチームで働いていたときに、賛同してくれた同僚やボランティアの方々と始めたのですが、所沢市に移ってからは、2019 年に新たに構想を始め、2021年から保健センターの職員さんと一緒に企画運営し、コースごとに運営スタッフ間で振り返りをして、プログラムを微修正して今日に至っています。

私が仲間と運営している非営利型組織「一般社団法人COMHCa」では、所沢市以外の地域にこの講座プロ グラムを広げていく活動を今年(2025年)から始めています。講座プログラムは、1コース受講者5人前後、スタッフ(ファシリテーター:進行役)5人前後の10人ほどの小さなクローズドグループで全10回のセッションが行われます。スタッフは専門職者と経験専門家から構成されます。全10回のセッションの特に3回目以降では、参加者は、それぞれがご自身のこれまで生きてきた道のりを振り返り、他者と共有したいことを選んで語り、他の参加者の語りを聴く(理解を深めるための質問とリフレクティングが含まれる)という経験を重ねます。詳細は、ぜひ次の文献1),2)をお読みになってみてください。

  1. 下平美智代,早瀬大介,齋藤文花他.経験専門家のピアサポートとオープンダイアローグ―語り聴く プロセスで何が起きているか.N:ナラティブとケア15, 61-67. 2024.
  2. 下平美智代,志賀滋之,本橋直人.特集 その後のオープンダイアローグ in Japan #03. 地域精神 保健領域での実践──経験専門家による対話的なピアサポート──.シンリンラボ16(2024年7月号). (https://shinrinlab.com/feature016_03/ ) </aside>

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「経験専門家養成講座」を行政とともに取り組まれているとのこと、とても興味深いです。ピアサポートスタッフと協働しながら地域の実践に取り組まれているとのことですが、下平さんがピアスタッフ、ピアサポーターとはじめて出会った時のことや、印象深いエピソードなどがあれば、ぜひお聞かせください。

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ピアサポートの重要性に気づいた最初にきっかけは、2004年のことです。社会学者の上野千鶴子先生が東京大学にべてるの家のみなさんを招いた『べてるに学ぶ 《おりていく》生き方』という講演会でした。べてるのみなさんのお話を聴いて大きな衝撃を受けました。お話してくださった方々のご経験はそれぞれ違うのですが、お一人おひとりがご自身のことを深く理解して、ご自身の表現の仕方で経験していることや気づきについて堂々と話されており、お話の内容と話しぶりに圧倒され、心を動かされました。

その後、故 久野恵理さんの導きで2012年にアメリカ、バーモント州の、当事者だけで運営されているアナザウェイ(Anotherway)というコミュニティセンターを訪問・見学させていただく機会がありました。アナザウェイは、当事者によって設立され、その後も当事者スタッフだけで運営を続けていました。当時のディレクターはスティーブン・ モーガンさんという方でした。アナザウェイでは、「食とアートを大事にしている」とおっしゃっていました。体によい野菜中心の食事をつくるための広いキッチンと、アート(絵や何か創作をする部屋と楽器が弾ける)のための部屋がありました。久野さんとスティーブンさんとの出会いは、シェリー・ミードさんのIPS(Intentional Peer Support);意図的ピアサポート)のワークショップだったと教えてくださいました。

そのワークショップのファシリテーターは久野さん含めて3名の方が務められていました。はじめは何か不思議な感覚がありました。時間の流れ方が違う。当時の私はいつも何かに追い立てられるようにせかせかとしていて、小走りで歩くのが癖になっていました。そのワークショップでは、「チェックイン」にゆっくりと時間を取っていまし た。「呼ばれたい名前」と「何が私をここに連れてきたのか?」を話すのですが、最初から長い沈黙の「間」がありました。ファシリテーター(進行役)は誰かが発言するまで黙っていました。今では私も、経験専門家養成講座のなかでそんな風に待つので普通のことになっているのですが、当時はファシリテーターが、そして参加者のみなさんが、当たり前のように沈黙を許容しているのが不思議でもあり新鮮でもありました。

そのワークショップでは、精神保健のサービスを利用する当事者、家族、提供する専門職者や研究者など、 様々なバックグラウンドの人がその場を共にして、テーマに沿って話し合ったり、ロールプレイをしたり、一緒に複数枚の写真を基に物語を創ったりしました。誰もが自分自身でその場にいて、ワークに取り組み、誰もがそういうお互いを尊重し合い、助け合っているように感じられました。そのときに、初めてピアサポートが誰かのことではなく自分自身のことになりました。私自身にも過去にメンタルヘルスの困難の経験がありましたが、それまで自分が「当事者」だと思ったことはほとんどありませんでした。私は専門職者として、自分の「弱さを克服する」道をずっと模索していたと思います。今振り返ると、「こうであらねばならない」「こうであってはならない」さまざまな観念で自分をしばっていました。そのワークショップで私が自分自身について気づいたこと、それは、いつも必死に思考を巡らせ、自分自身の感覚や感情をないがしろにしていたのだということでした。

IPSワークショップでの体験は、誰もが人間関係の悩みや何かトラウマに起因するような心身の症状や生活のしづらさを抱えているのだということ、相互サポート的な対話の場で、参加者それぞれが、自分の他者との関わり方 やその背景になっている自己の経験を振り返り、自分自身の思い込みや固定観念に気づくことができるのだということ、そして、その気づきが何か癒しのきっかけになる得るのだということを私に教えてくれました。一人ではなか なか気づけないこともこうしたグループのなかでは気づくことができます。そうか、これがピアサポートなのだと腑に落ちたのです。

ワークショップが終わる頃に、私はなんだか懐かしい感覚を抱いていました。『何なんだろう、この感覚は?懐かしくて、泣けてくる…。』実は、その懐かしさが何なのか今もうまく説明することができません。素の人と人との関り合いが懐かしかったのか、はたまた、自分の本質に触れたことが懐かしかったのか。理屈はともかく、そのときの経験は私にとって人生の大きな転機になりました。

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以前からピアサポートに関心を持たれていたのですね。IPSを通じて「ピアサポートが誰かのことではなく、自分自身のことになった」という言葉が印象に残りました。その経験が下平さんの人生にとって大きな転機になったとのこと、おそらく経験専門家養成講座の開催にも通じていくのかと思いました。改めて、経験専門家養成講座を開くことになった想いを聴かせていただけますか。

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「想い」としては、私のように、こういう場を求めている人がいるのではないかと思ったのです。

オープンダイアローグに出会う前に、ある精神科クリニックでカウンセリングをしていたことがあります。そのときに、女性だけの小さなクローズドグループを一定期間行っていたことがありました。その経験から、語ること、聴くことを意識的に行う心理療法的なグループに可能性を感じていました。その後に参加したIPSのワークショップは、 私にとっては、グループセラピーのような場だと感じました。それから間もなくオープンダイアローグと出会い、フィンランドでお二人の経験専門家のお話を聴く機会がありました。フィンランドでは複数の当事者団体などの機関 が経験専門家養成講座を運営していましたが、ケロプダス病院では、8人グループでひとりずつお話をするという 方法で研修が行われていました。スタッフの方の説明を聞いて、このグループは「研修」のためのグループではあっても、同時に相互サポート的な対話の場であり、それぞれが自分自身の人生を振り返り、言葉にして表現することが、参加者の気づき、癒し、エンパワメントにつながるセラピーのような場であると感じました。

これまでの見聞や経験の全てが私の中でつながり、「経験専門家養成講座」のプログラムをつくってみようと思いました。少人数の対話のグループを基盤として、語ること、聴くことのトレーニングを行う、そしてIPSのように参加者がその場を共にすることそれ自体が相互サポートとなるようなトレーニングのプログラムをつくろうと思いました。

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語ること、聴くことのトレーニングが、参加者のエンパワメントになり、相互サポートの場になる…。それはとても大事な場であると感じます。下平さんにとって、経験専門家養成講座を開催するうえでのやりがいはどんなことでしょうか。

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経験専門家養成講座は「講座」といっても、何か既存の知識を講師が提供して受講生が学習するという類の講座ではなく、ファシリテーター(進行役)も含めた参加者全てが、安心安全な場で、お互いがお互いの語りを聴き、理解を深めるための質問をして、リフレクティングをすることで助け合います。その相互サポート的な対話の場を全身全霊で経験することが学びになります。受講生のみなさんが喜んでくださることもやりがいですし、毎回、ファシリテー ターにとっても新しい出会い、新しい発見、新しい学び、感動があります。こうしたことが、続けていこうというモチベーションになっていると思います。

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その場にいる方すべてが互いを助け合い、サポートする主体になるのですね。改めて、下平さんはピアスタッフとの出会いや経験専門家養成の活動を通じて、ご自身(あるいは支援内容)にどのようなことが起こったのか、聴いてもよいでしょうか。

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IPSや経験専門家養成講座での経験は、私にとって自分自身の「価値観」を振り返る重要な機会になったと思います。それは「変化」と「成長」です。人は変わっていくし、成長し続けることができると思っています。「変わっていく」というのはどんな風にも変わり得る、それは自分も他者もそうだと思っています。だからこそ「どうありたいのか?」は重要な問いだと感じています。

そして、オープンダイアローグやIPSに出会った10年前に比べて、経験専門家養成講座を続けているなかで、 私自身はより「直感」を大事にするようになっています。その直感を言語的に理解するために思考を巡らすことがあります。『なぜ、私はこう反応したのか?なぜ、これを選んだのだろう?』まだまだ自分自身の理解も道半ばですので、他者のことを理解するのは本当に難しいと思います。だからこそ、聴くこと、対話が大事なのだろうなと思っています。

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人は変わりゆくものであり、成長し続けるということですね。下平さんの活動の基盤となる信念を感じました。それでは最後に、下平さんの好きな言葉やモットーなどありましたら教えてください。

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